2019年06月24日 11:00

WWIP中国商標法の考察「日本と中国の商標申請の違いについて(1) :中国と標準文字制度」

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株式会社ワールドワイド・アイピー・コンサルティングジャパン (WWIP : 東京都港区) は、中国商標法の考察と題して、「日本と中国の商標申請の違いについて(1):中国と標準文字制度」に関するレポートを本年6月24日に発表しました。(筆:WWIP中国法顧問 高橋孝治)
(以下、全文)


 日本の商標法には、標準文字制度という制度が導入されている。標準文字制度とは、商標登録をする際に、登録申請をする商標が文字のみで構成されている場合、商標出願人は商標登録を受けようとする文字である商標を願書に記載し、標準文字の利用を願書に記載するだけで、特許庁長官があらかじめ定めた一定の文字書体(標準文字)をもってその商標の表示態様として公表し及び登録する制度のことである(日本の商標法第5条第3項)。標準文字制度によって、デザインを含まない文字の配列も商標として保護されることになります。
 ところが、中華人民共和国(以下「中国」という)にはこのような標準文字制度が商標法の中に規定されておりません。これは日中の商標の定義の差異に原因があるといえます。日本では、商標は、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、業として商品を生産しまたは役務を提供し、証明し、もしくは譲渡する者がその商品について使用をするものなどをいいます(日本の商標法第2条)。これに対し、中国では商標は、他人の商品と区別するための標識で文字、図形、注音記号(中国語の発音記号)、数字、3D表示、色彩の組み合わせおよび音声などの要素を組み合わせたものであるとされています(中国の商標法第8条)。
 ここから分かる通り、日本の商標は「文字などの組み合わせであり商品やサービスに使用するもの」であり、中国では「文字などの組み合わせであり他人の商品と区別することができるもの」が商標です。この差異から読み取れることは、他人の商品と区別できなければならないため、中国では「ロゴマーク」などのみが商標となりうる=標準文字制度的な単なる文字の配列は商標とはなり得ないということです。
 しかし、中国の知的財産の実務界では、逆に「単なる文字の配列」が商標になりうるということに驚きを持っています。その意味では、今後中国にも標準文字制度が導入される可能性はゼロではないと言えるかもしれません。
その一方で、中国の知的財産法の歴史的背景から考えると標準文字制度のような制度はまだまだ導入されないのではないかとも言えます。中国では知的財産関係の法制度は非常に遅れています。この「遅れている」原因は「その意義が認識できない」ためです。社会主義国家である中国は、無形のものに権利が発生するという概念を持っていませんでした(註1)。さらに、社会主義国家では、「みんなで共有する」という発想になるため、自分が考えたアイディアを他人に勝手に使われないように保護するという発想が全くと言っていいほど認められてこなかったのです。そのため、一応、中国にも初期の頃から特許や商標に関する法規はありましたが、現在の我々が理解する法規とは大きく異なっていました。例えば、商標に関する法規である「商標管理条例」(1963年4月10日公布、施行。1983年3月1日失効)は、社会主義体制の中で、国内でどのような商標が用いられているか政府が知り、管理するための規定でした(註2)。また、特許関係については「発明を奨励する」という規定があるものの、発明品は中国国内で無償で国民全員が利用していました。
 中国が商標法、著作権法などを整備するのは、1980年に世界知的所有権機関(WIPO)に加入したこと、さらには後にWTO加盟を見据えてのことです(註3)。このため中国の商標法は制定が1982年8月23日、施行は1983年3月1日となっています。
 中国は長らくこのような発想で商標を考えていたため、「ロゴマーク」などイラストとの組み合わせの商標権は保護するようになっても、単なる文字の配列とも言える標準文字制度を導入するかは不透明とも言えるでしょう。社会主義的国家観に立てば、無形のアイディアに権利は発生しない、したとしてもイラストと組み合わせるなど作成に相当苦労したことが容易に想像できるもののみということになります。イラストと組み合わせてもいない商標は、付加価値たるアイディアが希薄で簡単に作成でき、保護に値しないとも中国はいまだに考えている可能性があるのです。


<註>
(1)鄧国輝(主編)『知識産権法学――理論・実務・案例』中国政法大学出版社、2010年、33頁。
(2)張平『知識産権法』北京大学出版社、2015年、188頁。
(3) 鄧国輝(主編)・前掲註(1)33頁。張平・前掲註(2)188頁。


■ 筆者 ■
WWIP中国法顧問 高橋 孝治(たかはし こうじ)
株式会社WWIP コンサルティングジャパン 中国法顧問
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
日本で修士課程修了後、中国法の魅力に取りつかれ、
都内社労士事務所を退職し渡中。
中国政法大学 刑事司法学院 博士課程修了(法学博士)研究領域:中国法。
法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)

著書に、『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015 年)、
『日本学(第二十編)』(共著・北京大学日本研究中心(編)、世界知識出版社、2018年)、『中国年鑑2019』(共著・中国研究所(編)、明石書店、2019年)等。
『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて「高橋孝治の中国法教室」連載中。
日本テレビ「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送)では中国商標法についてコメントもした。


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