2020年10月05日 15:30

新型コロナウイルス抗体陽性に影響を及ぼす背景因子は認められず。 抗体陽性の多い地域では患者発生を予測できる可能性も。 (調査結果論文 日本語要約公開)

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神奈川県内科医学会は、神奈川県内にて、新型コロナウイルスに対して、本人が気付かないうちに感染して抗体を得ていた人がどの程度いるのか、臨床の最前線の現場の医療機関で調査研究いたしました。この度、その結果の日本語要約を10月5日にホームページにて公開いたしましたこと、ご報告いたします。
なお、全文は、日本感染症学会の英文誌であるJournal of Infection and Chemotherapyをご覧いただきますようお願いいたします。
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2020.09.005

無症状、軽症のコロナ患者が60%いるのが現状です。また、今回の不顕性感染の調査からも、コロナ感染はゆるやかに蔓延しています。行政検査で症状がなければ、医療現場ではPCR検査が行えない状況では、院内感染、医療者への感染は防ぐことは困難です。またさらなる第3波の到来も防げません。今後は医師の判断でPCR検査を行えるように改善すべきであると考えます。


<日本語要約>


COVID-19は症状のない人がいたり、発症前にも感染力があるという報告もあり[1,2]、気づかないうちに感染した人が感染拡大を助長する可能性もあるため、その実態を知ることは地域でのCOVID-19感染率を知る上で重要です。
日本での報告では、抗体陽性率は0.03-3.3%と幅がありますが[3-6]、国外の調査結果の陽性率の幅はさらに大きく、1%台から10%を超えています[7-11]
しかし、これまでの報告では、被検者の行動や合併症等の背景情報と抗体陽性率との関係は明らかではありませんでした [12,13]。また、BCGワクチンはウイルス感染に対する予防となることが示唆される報告もあります[14]。そこで、こうした背景情報を含んだ調査を、神奈川県にて、患者・医師・看護師を対象に実施しました。神奈川県は日本最大都市の東京都に隣接し、人口も920万人で東京都に次ぐ2位です。ダイヤモンドプリンセス号が停泊していた横浜があり、感染者数は7,136名(10月4日現在)※、日本で3位の県でもあります。神奈川県での調査結果は、大都市への電車での通勤・通学の多い各国のベッドタウンのモデルにもなる可能性があります。 (※論文投稿から時間が経過しているため、現在のデータにて表示)

神奈川県の65医療機関にて、患者・医師看護師1603名を対象に、同意を取得しアンケートへの回答を得たうえで、血清を用いてSARS-CoV-2抗体(IgG)陽性の割合および背景因子との関係を調査しました。新型コロナウイルス抗体の測定には、横浜市立大学と関東化学株式会社が共同で開発したイムノクロマトグラフテスト(シカイムノテストSARS-CoV-2 IgG)を使いました。
その結果、39名(2.4%)がIgG抗体陽性を示し、患者では29名(2.9%)、医師看護師では10例(2.0%)、健康診断等で受診した基礎疾患のない方では0名でした。抗体陽性判明後は、各医師の判断により、必要に応じてPCR検査を実施しましたが、PCR検査にて陽性となった人はいませんでした。医療機関当たりの陽性者は1人から6人であり、ばらつきがあり、陽性者が多く見られた地域では1か月以内に患者発生が認められた地域もありました。
アンケートでは、海外渡航者および海外渡航者との接触が不顕性感染の要因となるかもしれないと考えていましたが、この点は有意な要因とはなりませんでした。また、抗体陽性者の中には、2020年の海外渡航歴のある人はいませんでした。一方で、陰性群には85名の渡航者がおり、新型コロナウイルスが流行した国に渡航した人もいました。また、2020年に海外渡航歴のある人もしくは訪日した人との接点に関しても、抗体陽性の集団の方が、その割合が少ない傾向がありました。
密集・密接・密閉の観点からは、週5回以上の電車利用が、不顕性感染の要因になるかもしれないと考えましたが、両群とも約20%でした。密集・密接・密閉を避けるように、行政から注意勧告がなされているものの、今回の調査では満員電車からの影響は考えにくい結果でした。
生活圏における新型コロナウイルスの感染者の有無も、抗体陽性への影響は認められませんでした。電車利用による影響がなかったことと併せると、マスクの着用による飛沫感染防止が有効[15]であった可能性もあります。
BCG接種も、抗体陽性の要因にはなりませんでした。この点については、日本における接種率が高いこともあり、差がつきにくかった可能性があります。また、抗体陽性者には、インフルエンザの診断を受けたものはおらず、インフルエンザとは区別されており、併発している人もいなかったことが確認できました。
基礎疾患としては、肺疾患が陽性は5例(12.8%)、陰性は84例(5.4%)でしたが、有意差は認められませんでした。様々な要因の相互の影響を考慮した解析も実施しましたが、肺疾患は有意な要因ではありませんでした。しかし、肺疾患は感染後の重症化のリスク因子のため注意は必要と考えます。また、一部の高血圧治療薬が新型コロナウイルスと関係がある可能性を考慮して、該当する薬の服用状況と抗体陽性の関連性も解析しましたが、影響は認められませんでした。

まとめ
日本の神奈川県における医療機関および医療機関の外来調査の抗体調査では、抗体陽性率は2.4%でした。また、本人が気付かないうちに感染して抗体を得ていた人と、そうでない人の間には、背景因子の違いは認められませんでした。一方で、抗体陽性の多い地域では患者発生を予測できる可能性があり、定期的な地域での検査が新型コロナウイルスの感染状況を把握することに役立つと考えられます。こうした検査の結果は、公衆衛生学的な面からも、注意喚起を適切に促すことができる可能性があります。

文責;神奈川県内科医学会 学術部会長  松葉育郎


References

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Tel 045-241-7000

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