2021年03月26日 14:00

東京大学 大学院総合文化研究科との共同研究中間報告 <語学留学の脳科学的効用>論文を公開

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世界110か国以上で海外留学、語学教育、学習研究、文化交流、教育旅行事業を展開する国際教育のリーディングカンパニー、イー・エフ・エデュケーション・ファースト(日本法人イー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパン株式会社〈本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:リーナス・ジョンソン〉、以下「EF」)は、東京大学 大学院総合文化研究科の酒井研究室(〈教授:酒井邦嘉〉、以下「東京大学 酒井研」)と共同で進める「語学留学の脳科学的効用」に関する論文が学術誌『Frontiers in Behavioral Neuroscience』に掲載され、本日付けで東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部との共同発表として公開(別紙:発表資料)されたことをご報告します。

「語学留学の脳科学的効用」に関する共同研究について
様々な国籍や年齢層を対象に語学学習機会を提供するEFでは、<学びのメカニズムの解明>と<教育改善のための革新>を目指して、研究機関との共同研究の取り組みを進めています。

EFと東京大学 酒井研の共同研究は、第二言語の習得や使用に関係する脳メカニズムの特定を目的に2015年にスタート。MRI(磁気共鳴画像法)技術を用いて脳科学の視点から言語習得の解明を進める酒井教授の研究に基づき、海外留学など海外で言語を学ぶ経験(言語理解や言語表出)が脳にどのような影響を与えるかを調査することを目的に、国内外のEF直営語学学校で語学学習に取り組む学生の学習前後の脳構造の比較や第二言語使用中の脳機能の働きの調査などを行っています。

論文の発表にあたって、EFアカデミックアフェア・バイスプレジデントのクリストファー・マコーミックは、次のようにコメントを公表しています:
「私たちは酒井教授の革新的な研究を通じて、語学の習得が脳の中でどのように進められているのか、その解明を目指しています。本研究の現段階では、<何>が<どのように>起こっているかを理解し、それを<なぜ>の解明につなげていくことが大切です。初期の研究で、第一言語、第二言語の使用で脳のどの部分・領域が使われているかがわかってきています。続いてMRI検査と画像の解析を通じて、学習期間中にこれらの脳の活動が<どのように>起きているかが明らかにされつつあります。
今後の研究によって、海外留学をはじめとする様々な学習経験が、脳の働きとして多言語の習得にどのように影響するか解明され、語学教育の取り組みが前進することを願っています。」

以上



別紙:発表資料
語学留学の脳科学的効用
-外国語の習得によって言語野や感覚野の脳活動に変化-

1.発表者:
酒井 邦嘉(くによし)(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授)

2.発表のポイント
◆日本語を習得し始めた語学留学生を対象にして、約2カ月という短期間で言語野や感覚野の脳活動が定量的に変化することを発見しました。
◆記憶に関わる海馬の左右および前後の領域が、言語習得中に異なる働きを持つことを初めて実証しました。
◆現地の豊富な言語環境で学ぶことで、脳機能の顕著な変化が生じるという効果が明らかとなりました。

3.発表概要:
東京大学大学院総合文化研究科教授の酒井 邦嘉(酒井研究室に所属する3人の大学院生を著者に含む)は、海外留学、語学教育、学習研究、文化交流、教育旅行事業を展開する私立教育機関イー・エフ・エデュケーション・ファースト(本社:スイス、以下 EF)との共同研究において、短期間の語学留学中に脳機能の顕著な変化が生じることを初めて明らかにしました。本研究グループは、東京都渋谷区にあるEF東京校で新たに日本語の習得を始めた外国人留学生を対象にして、約2カ月の間隔を空けてリーディングとリスニングのテストを2回行いました。MRI装置(注1)を用いて脳活動を計測した結果、脳の言語野に加えて視覚野において活動が減少しましたが、聴覚野では逆に活動が増加しました。この結果は、言語習得で単に脳が活性化するのではなく、脳機能に変化が生じていることを示すものです。コロナ禍で海外渡航が規制されて留学の計画変更を余儀なくされる学生がいる中、たとえ短期間であっても現地の豊富な言語環境で学ぶことの重要性が明らかとなりました。

4.発表内容:
(1)研究の背景・先行研究における問題点
これまでのfMRI(機能的磁気共鳴画像法)(注2)を用いた脳研究により、母語(第一言語)の獲得の後に習得した外国語(第二言語)であっても、母語と共通する左脳の言語野が機能することが確かめられています。また、第二言語の習得初期には文法成績と比例して、言語野の一つである下前頭回と中前頭回(注3)の脳活動が増加するのに対し、習得経験が6年ほど経つと、その脳活動が減少に転ずることが分かりました。ところが、それより短期間の変化については一貫した結果が知られていません。また、言語野の他の領域、例えば感覚野(視覚野や聴覚野など)および記憶に関わる海馬(注4)が、第二言語習得でどのような活動の変化を示すかは、まだ明らかにされていませんでした。

(2)研究内容
実験の参加者は、18~30歳の参加者15人で、ドイツ語・ノルウェー語・スペイン語・フランス語・オランダ語を母語としていました。なお、彼らは既に英語を第二言語として習得していたので、日本語は第三言語ということになりますが、ここでは母語以外をまとめて「第二言語」と呼びます。実験にあたって、東京大学の倫理委員会で承認の上、全参加者から書面でインフォームド・コンセントを得ています。
EF東京校での日本語の授業開始から2-3カ月後に、日本語のリーディングとリスニングのテスト(図1)を一度行い、さらにその40-100日後(平均61日)に、別の問題でリーディングとリスニングのテストを行って、その間の変化を調査の対象としました。ここでは、2回のテストの前者を「プレ(Pre)」、後者を「ポスト(Post)」と呼ぶことにします。なお、参加者の半数で問題のセットを入れ替えましたので、問題の順序や難易度は結果に影響しません。
リーディングのテストでは、ローマ字のみ・仮名文字のみ・仮名と漢字という3種類を混ぜてあり、一文の穴埋め問題(図1A)に対して4つの選択肢を提示しました。リスニングのテストでは、短文の問題(図1B)と長文の問題(図1C)を用意して、それぞれ同じ音声刺激を2度提示することで、TOEFLなどのリスニングテストを再現しました。1度目の音声刺激(1st listening)は聴くことだけに集中し、解答は2度目の音声刺激(2nd listening)を聞いてから4択で解答を行います。
その結果、リーディングのテストでは、プレからポストで成績が上昇して(図2A)、リスニングのテストでは応答時間が速くなりました(図2B)。これらのテストを行っているときの脳活動をfMRIで測定したところ、言語処理に関連した左の下前頭回と中前頭回などに活動が観察されました(図3)。この脳活動は、図1に示したベースラインの間の脳活動を差し引いているため、たとえプレからポストの間に脳活動が変動したとしても、その影響を受けることはありません。実際、プレとポストで脳活動の領域はほぼ同じでした(図3)。この言語野の活動に加えて、リーディングのテストでは両側の視覚野が活動し(図3A)、リスニングのテストでは両側の聴覚野が活動していました(図3B)。
以上の結果を定量的に条件間で比較したところ、左の下前頭回と中前頭回では2度目の音声刺激(2nd listening)において(図4A)、左の視覚野ではリーディングにおいて(図4B)、脳活動が減少しました。その一方で、右の聴覚野では2度目の音声刺激(2nd listening)において(図4C)、脳活動が逆に増加しました。脳活動の減少は熟達による脳の省エネ化を反映しており、増加の方はリスニング能力の向上による注意の促進効果を示唆しています。さらに、記憶処理に関係する両側の海馬でも活動が観察され、その前部領域の活動は1度目の音声刺激(1st listening)に対して選択的でした(図4D)。リーディングや2度目の音声刺激(2nd listening)に対してはほとんど活動が見られないので、単に新奇な刺激に反応したわけではなく、聴覚情報の最初の記銘に関わると結論できます。

(3)社会的意義・今後の予定
このように短期間の語学留学の効果が脳科学で実証できたことは、成績よりも直接的な評価法を与えるものとして期待されます。今回は語学留学のみを調査の対象としましたが、同様に効果的な習得メソッドがあれば、その熟達度を脳活動として測定できることでしょう。コロナ禍で海外渡航が著しく規制され、貴重な留学の機会を逸した学生がいたことは、社会にとっても損失でした。たとえ短期間であっても現地の豊富な言語環境で学ぶことは、言語習得にとって極めて重要なのです。
これからも、東京大学の酒井研究室では人間の脳における言語や記憶メカニズムの解明を追究していきます。

付記:本研究は、イー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパン株式会社より共同研究費の助成を受けました。EF東京校との連携を含め、厚く感謝申し上げます。なお同社は、研究データの取得・解析や論文作成に関与しておりません。

5.発表雑誌:
雑誌名:Frontiers in Behavioral Neuroscience
論文タイトル:“ Modality-dependent brain activation changes induced by acquiring a
second language abroad”(海外における第二言語習得で引き起こされたモダリティ依存性の脳活動変化)
著者:Kuniyoshi L. Sakai*, Tatsuro Kuwamoto, Satoma Yagi, and Kyohei Matsuya
(酒井(さかい) 邦嘉(くによし)・桑本(くわもと) 達郎(たつろう)・八木(やぎ) 里磨(さとま)・松谷(まつや) 恭平(きょうへい))
DOI番号: 10.3389/fnbeh.2021.631957
アブストラクトURL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnbeh.2021.631957/abstract



用語解説:

(注1)MRI装置
MRI(磁気共鳴映像法)は、脳の組織構造を、水素原子の局所磁場に対する応答性から測定し画像化する手法で、全く傷をつけずに外部から脳組織を観察する方法として広く使用されています。そのために使用する医療機器が、超伝導磁石によって高磁場(3テスラ程度)を発生させるMRI装置です。注2で述べる「fMRI」でも、このMRI装置を使用します。

(注2)fMRI(機能的磁気共鳴画像法)
脳内の神経活動に伴う血流変化を、局所磁場の変化から測定し画像化する手法で、全く傷をつけずに外部から精度良く脳活動を観察する方法として、1990年代から広く使用されています。

(注3)下前頭回と中前頭回
下前頭回(ブロードマンの44/45野)と中前頭回(6/8/9野)は、ともに、脳の前頭葉に左右それぞれある領域です。左脳のこれらの領域は、人間の言語処理にかかわる「言語野」の一部であり、特に文法処理を司る「文法中枢」の機能があります。右脳の方は文法中枢を補助する働きがあります。

(注4)海馬
脳の側頭葉の内側部に左右それぞれある領域です。海馬を損傷した患者の症例研究から、海馬は新たな情報を記憶として固定化する機能を持つことが明らかになりました。近年の脳研究では、記銘時に使われる海馬や言語野が、記憶を想起する際にも働くことが報告されています。



添付資料:
[図1]参加者はリーディングのテスト(A)に加えて、リスニングのテストを短文(B)と長文(C)で行いました。脳活動は、ベースラインに対してfMRIイベント(太線部)に同期した上昇分として測定しました。リスニングテストの1度目の音声刺激(1st listening)では音声刺激だけの提示ですが、2度目の音声刺激(2nd listening)では問題文を、短文と長文の両方で同時に提示しています。

[図2]リーディングとリスニングのテストに対する正答率(A)と応答時間(B)。セット「プレ(Pre)」から約2カ月後に実施した「ポスト(Post)」では、それぞれのテストで、成績が上昇し応答時間が速くなるという上達が見られました。
[図3]リーディング(A)とリスニング(B, 1st listening)のテストに対する脳活動。脳の表面の活動(赤の部分)を左側から、後ろ側から、右側から示します。プレとポストで活動の領域の再現性が高いことが分かります。
[図4]下前頭回と中前頭回(A)、視覚野(B)、聴覚野(C)、海馬の前部領域(D)について、プレとポストそれぞれで左脳[L]と右脳[R]に分けて活動を示しました。リーディング(Reading)は図1A中のfMRIイベントにおける活動で、リスニングは図1Bと図1C中のfMRIイベントをまとめて、1st listeningと2nd listeningにおける活動に分けてグラフに示してあります。

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